- 「生命を脅かす疾患」に直面している患者の医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による指示書
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- これは日本臨床倫理学会によるPOLST(DNAR指示を含む)の作成指針です。
- 患者さんのためにPOLST(DNAR指示を含む)を作成する医師であれば、どなたでも使用することができます。
蘇生不要指示・DNAR指示(Do Not Attempt Resuscitation)は、日常的に日本中の多くの病院で出されていますが、「DNAR」という言葉をアメリカから輸入したに過ぎず、「コンセンサスがない」というのが臨床現場の実情でした。実際、DNARのとらえ方が、医療者個人個人で異なっており、DNAR指示によってCPR以外の他の治療に対しても消極的になり、生命維持治療も制限されてしまい、実質的な延命治療の差し控え・中止となってしまっている場合さえあります。しかし、それは「DNARだから・・・」、ということで十分に議論されず、DNARという言葉だけが一人歩きをしてしまっている現状がありました。
そこで、日本臨床倫理学会は、このような混乱したDNAR指示の現状を改善するという目的のもと、2014年1月に「DNAR指示に関するワーキンググループ」を発足させ、話し合いを重ねてまいりました。このたび作成指針を皆様に発表できるのも、ワーキンググループのメンバーの熱心な議論と、オブザーバーの皆様のご助言のたまものだと思っております。
また、「生命を脅かす疾患」に直面している患者においては、CPR以外の他の医療処置の内容についても、具体的に十分に考慮する必要があるという趣旨のもと、日本臨床倫理学会の本指針は、CPRについてだけでなく、他の医療処置に関する具体的指示も含んだPOLST=Physician Orders for Life Sustaining Treatmentという形式を採用することにしました。
実際、それぞれの医療機関の状況により、必要とされる書式・指針は微妙に異なってくるとは思いますが、日本臨床倫理学会版のPOLST(DNAR指示を含む)作成指針は、【基本姿勢】【ガイダンス】【書式】を通じて、日本中の医療機関で使用することができる基本的枠組みは示すことができたと思います。細部は、各医療機関の事情に応じて、改変・追加するなりしていただくことは可能です。実際、まだまだ、今後の課題も山積しております。たとえば、救急隊への具体的指示(*)や、介護施設や在宅における看取りに際してのPOLST(DNAR指示を含む)の普及活動については、今後の課題です。
日本臨床倫理学会版のPOLST(DNAR指示を含む)作成指針が、今後、適切に使用され、臨床現場における倫理的な医療実践につながることを心から願っています。したがって、今後も、本ワーキンググループは引き続き、本学会内外において、本指針の利用状況を見ながら、忌憚のない意見を聴取することで、評価・改訂を続けていく予定です。引き続き、皆様のご助言・ご意見をお願いする次第です。
*救急隊への指示については、本書式では一般的なものを記載してありますので、現時点では各地区の事情に応じて、所属地区の救急隊と話し合いをもち、合意を得て記載してください。
POLST(DNAR指示を含む)を作成するためには、倫理的に適切な作成プロセスを踏む必要があります。
日本臨床倫理学会のPOLST(DNAR指示を含む)は、以下の3つから構成されています。
書式を作成する際には、必ず、Ⅰ. 基本姿勢、Ⅱ. ガイダンスを参照してください。
- 日本臨床倫理学会が作成した書式を使用しただけでは、医師の出したPOLST(DNAR指示を含む)が常に適切であるというわけではありません。
- 以下のPOLST(DNAR指示を含む)作成の適切なプロセスが踏まれているかを、必ずご確認ください。
- 【詳細は、POLST(DNAR指示を含む)作成に関するⅡ. ガイダンスを参照してください】
- (1)患者本人・家族(近親者)および医療ケアチーム内で十分なコミュニケーションがなされていますか?
- (2)患者本人の意思は尊重されていますか?
- (3)患者が意思表明できない場合の検討がなされていますか?
- (4)患者は、POLST(DNAR指示を含む)を出すのにふさわしい医学的病態ですか?
- (5)意思決定についての手続きは適正ですか? 記録は適切になされていますか?
意思決定のプロセスが「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」(厚生労働省、2007年)に沿っているかどうかを、再確認してください。 - (6)POLST(DNAR指示を含む)作成後にも、患者の尊厳に対して配慮はなされていますか?
- Ⅰ. POLST(DNAR指示を含む)についての基本姿勢
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日本臨床倫理学会の臨床実践に対する基本理念として、患者の自律(Autonomy)を尊重することによって適切な医療の意思決定プロセスを確保し、よりよい医療者-患者関係を築くことがあげられる。したがって、以下のDNAR指示(Do Not Attempt Resuscitation Order)について熟慮することも、その理念を実現するために重要であるという趣旨のもと、日本臨床倫理学会は、2014年1月に「DNAR指示に関するワーキンググループ」を立ち上げた。DNAR指示を巡る臨床現場の混乱している状況の改善に向けて、議論・検討の結果、指針を作成することにした。
- 1.DNAR指示を検討する理由
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DNAR指示は、その歴史的背景からも、「心肺蘇生術(Cardio Pulmonary Resuscitation;CPR)を実施しないという患者の意思・事前指示に沿って医師が出すオーダーである」と言える。しかし、DNAR指示が出されている医療の現場で、患者の意思が本当に尊重されているのか。臨床倫理の基本原則である「患者の意思」が尊重されるためには、CPRをしないというオーダーが、誰が、どのような基準で判断しているのかが明確にされる必要がある。さらにCPRに含まれる医療処置の内容、およびCPR以外の医療処置について、医師だけでなく、看護師など他の医療職にも共通理解があること。そして、そのうえで、可能な限り事前に患者や家族と対話を深め、適切に説明されることが必要であろう。しかし、これらについて、いずれのレベルでも十分でないとの現状がある。
さらに、実際の臨床現場では、DNAR指示によってCPR以外の他の治療に対しても消極的になり、生命維持治療も制限されてしまい、実質的な延命治療の差し控え・中止となってしまっている場合さえある。そこで、「生命を脅かす疾患」に直面している患者においては、他の医療処置の内容についても、具体的に十分に考慮する必要があるという趣旨のもと、日本臨床倫理学会の本指針は、CPRについてだけでなく、他の医療処置に関する具体的指示も含んだPOLST=Physician Orders for Life Sustaining Treatmentという形式を採用することにした。
- 2.本指針の目的
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本指針は、倫理の観点から医療の質の向上を図るとともに、医療現場の現状に即して、実際に現場で使える指針を作成するという目的を目指している。DNAR指示によって提供される医療の質を落としてはならないが、それは「その患者にとって」「その時点で」「最もふさわしい医療ケア」を患者と共に考え、緩和ケア的アプローチを含めて提供することを意味する。
- 3.本指針に関わる人々
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DNAR指示は、点滴・投薬などの他の医療的処置と同様、主治医によって出されるオーダーの一つである。したがって、患者や家族と十分な話し合いをした後、DNAR指示は、主治医が作成する。医師が患者の自己決定や尊厳に配慮した意思決定のプロセスを実践することによって、日本 の医療はよりよい方向に向かっていくことができる。「医師が変われば、医療は変わる」のである。
次に、看護師をはじめとする、医師と患者・家族との橋渡しをする医療関係者である。医師と患者・家族の対話を促進し、互いの理解を深めることを支援するリエゾン(連携者)としての役割が期待される。同時に、患者・家族である。このような指針や書式があることを知り、自ら蘇生を含めた終末期医療について考え、決定していくことが期待される。したがって、可能な限り患者によって事前指示が作成されていることが望ましい。患者によって書かれる書式である事前指示は、主治医と患者の間では有効であり尊重されることが望ましいが、院内・院外における突然の心肺停止(Cardio Pulmonary Arrest;CPA)に他の医療者が対応する場合にはDNAR指示が必要となる。特に、今後は救急隊に対する指示としても有用であると考えられる。
本指針は、DNAR指示が患者の自律(Autonomy)や幸福(Well-being)に基礎をおいている性質上、「生命を脅かす疾患に直面」しながらもいまだ意思能力がある患者や、家族が適切に代理判断できる状況において、最も当てはまり易いと考えられるが、今後は、救急の現場や在宅医療・介護施設でも、本指針が参照されることを目指すものである。
- 4.本指針のアプローチ
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多くの終末期医療の議論は、とかく、「権利」「義務」「責任」という法的なアプローチが先行し、医療者側の「同意をとる」「免責」という、いわば患者・家族との対立型の応答に終わることが多い。しかし、DNARに関わる蘇生の問題が、このような対立型の問題であるべきではない。DNAR指示は患者のためのアプローチである。そこで、本指針は、DNAR指示を医療者と患者・家族の両者の共同作業(プロセス)として捉え、そのうえで、そのプロセスが公正であるための方策について提言をする。
- 5.欧米での議論との関係
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DNARの議論は欧米で先行したものであるが、「DNAR指示ほど、象徴的で議論を巻き起こした医療上の論点はない」といわれるほど十分な議論が行われてきた経緯がある。アメリカにおいては、一歩進んで、州法として法制化されているが、そのような差異だけでなく、医療サプライの制度的な違いや、異なった文化的背景をしっかりと踏まえ、今後、日本においても、臨床の問題状況の理解を適宜更新し、息の長い活動とする。
- 6.これまでの職業倫理との関係
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これまでの高い職業的倫理意識に基づく実践を踏まえながら、今、さらに何が必要かを、創造的そして批判的に継続して検討していく。
- 7.「甘い」言葉に逃げない指針
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今までの多くの指針には、「患者の意思が分からなければ、患者の最善の利益に沿って行う」「医療が無益であれば、医療者は医療行為の義務を負担しない」「患者家族に十分に説明し、皆で話し合うこと」という一見すると正しいが、医療現場に応用することが困難な文言が頻用されていた。しかし、臨床の現場では、「最善の利益」「無益」の判断基準が一致せず、常に不確実性とそれぞれの患者の個別性に悩んできた。このような、時間的余裕がない中で判断を迫られる医療現場のニーズに応えるために、さまざまな実際の事例を検討する倫理コンサルテーションを通じて、継続して臨床現場とともに悩み考えていきたい。
まず、患者本人が意思表明できる場合には、本人の自己決定(意思・価値観)を尊重すること、そして、本人が意思表明できない場合になされる代理判断に際しても、可能な限り本人の真意の探求をする努力をし、本人意思を適切に推定することが望まれる。以上の基本姿勢の下で、本指針(ガイダンス)と書式が検討され、作成されたが、この基本姿勢が達成されるかどうかは、ひとえに、本指針と書式が利用されて、倫理的な医療実践につながったか否かによる以上、本ワーキンググループは引き続き、本学会内外において、本指針の利用状況を見ながら、忌憚のない意見を聴取することで、改訂を続けていく。
- Ⅱ. POLST(DNAR指示を含む)作成に関するガイダンス
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現在、広くDNAR指示(Do Not Attempt Resuscitation Order)という言葉が用いられていますが、DNAR指示は心肺停止(Cardio Pulmonary Arrest;CPA)の際に、心肺蘇生術(Cardio Pulmonary Resuscitation;CPR)を実施しないという患者(家族)の意思に沿って、医師が出す指示(Order)です。したがって、DNAR指示は、CPR以外の治療方針に影響を与えてはなりませんが、特に「生命を脅かす疾患」に直面している患者においては、他の医療処置の内容についても、具体的に十分に考慮する必要があります。
そこで、当書式は、DNAR指示という形式ではなく、CPR以外の医療処置についての指示も含んだPOLST(Physician Orders for Life Sustaining Treatment)という形式を採用しています。POLST(DNAR指示を含む)作成のプロセスおいては、以下の項目に留意をしてください。- 1.POLST(DNAR指示を含む)作成に際して、患者本人・家族(関係者)および医療ケアチーム内で十分なコミュニケーションがなされていますか?
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- 意思決定のプロセスにおけるコミュニケーションの重要性
POLST(DNAR指示を含む)の必要性について適切に評価した後、患者本人や家族等に対して、本人に意思能力がある早い段階からのコミュニケーションが大切です。そして、わかりやすい情報の提供に心掛け、丁寧に話し合いを繰り返すことが必要です。
- 「意思能力のある患者本人」と、医療ケアチームとのコミュニケーションは適切になされていますか?
- 「意思能力のある患者本人」と「家族などの近親者」とのコミュニケーションは適切になされていますか?
- 「意思能力のある患者」の「家族」と、医療ケアチームとのコミュニケーションは適切になされていますか?
- 「意思能力のない患者」の「家族」と、医療ケアチームとのコミュニケーションは適切になされていますか?
医療ケアチーム内におけるコミュニケーションは適切になされていますか? 看護師など他のスタッフや、主治医以外の医師との十分な話し合い・合意は重要です。
(注;意思能力とは、自分の受ける医療やケアの内容について、理解し判断・決定する能力を指します)
- 2.今後の医療について、患者本人の意思は尊重されていますか?
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- 意思決定のプロセスにおけるコミュニケーションの重要性
- 患者に意思能力があれば、医師は、原則として患者の意向を尊重する
- 治療方針やCPAの可能性について事前に患者と話し合う
- 患者が自己決定(informed decision-making)できるように十分な情報を提供する
- わかりやすい提案をする
- POLST(DNAR指示を含む)に関する話し合いは、本人に意思能力のある外来の時点、あるいは入院後早い時期の危機的状況になる前に始められることが望ましい。具体的には、CPRについてだけでなく、他のどのような医療的処置をするのか、しないのかを話し合っておくことが望ましい。
- POLST(DNAR指示を含む)について、繰り返し患者と話し合う
POLST(DNAR指示を含む)後も、緩和ケアを含めた適切な医療ケアは継続的に提供されることを説明する
- 意思決定が不可能な患者のPOLST(DNAR指示を含む)は、患者の意向や患者にとっての最善の利益に基づいて決定する
※(3)家族の代理判断の項参照
- 蘇生などに関する意思決定は、(書式などによる)患者の意向に沿うこと
- 患者本人が書いた事前指示を尊重することが望ましいので、事前指示の作成を提案する
- 3.患者本人が意思表明できない場合の代理判断、家族および近親者の考えを尊重していますか?
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- (1)代理判断者について
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- POLST(DNAR指示を含む)は、患者本人の自己決定を基本としていますが、本人が意思表明できない場合には、家族等が代理判断をします。
- 代理判断者には、代理判断をする人一般を指すsurrogateと、本人が指名したproxyがあります。患者の自律の視点からは、本人が指名したproxyが、より適切であると言えます。
- 家族等は、代理判断者として適切ですか? 以下の要件について考えてください。
- 代理判断者は、患者の性格・価値観・人生観等について十分に知り、その意思を的確に推定することができますか?
- 代理判断者は、患者の病状・治療内容・予後等について、十分な情報と正確な認識をもっていますか?
- 代理判断者の意思表示は、患者の立場に立ったうえで、真摯な考慮に基づいたものですか?
- 代理判断をする適切な家族等がいない場合には、誰が代理判断者として適切なのかを関係者で話し合ってください。
- 代理判断者は、一人ですべてを決める必要はありません。関係者間の「コミュニケーションの中心」としての役割を担ってください。
- 倫理コンサルテーションや倫理委員会は、中立的第三者としての助言をするのに役立ちます。
- (2)代理判断の内容の適切性について
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- 主治医をはじめとする医療ケア専門家は、家族等の代理判断者が、適切な判断をすることができるように支援をします
- 家族等が、「患者のかつての願望」「患者の価値観に基づいて推定された願望」「家族自身の願望」「患者の最善の利益」について、適切に区別できるように支援することが重要です。
- 特に、家族等の判断や決定は、本当に「患者本人の意思を推定あるいは反映しているのか?」、もしかしたら「家族自身の願望とか都合ではないのか?」という倫理的に微妙な違いに敏感になる必要があります。
- したがって、家族との面談の最も重要な意義は、家族を通じて患者の真意を知ることだといえます。
- 家族等(代理判断者)は、患者のかつての願望(事前指示)を尊重していますか?
- 蘇生などに関する意思決定は、(書式などによる)患者の意向に沿うこと
- 患者本人の事前指示があれば、それを尊重する
- 事前指示の内容が、現在の本人の病状や最善の利益に合致するかどうか検討する
- 代理判断者による決定内容が、本人の事前指示の内容と異なった場合には、「セクションD;患者による事前指示」の欄に、その変更内容・理由などを書き入れてください。
- 家族等(代理判断者)は、患者の意思を適切に推定していますか?
- 現在意思能力がない患者が、もし当該状況において意思能力があるとしたら行ったであろう決定を代理判断者がすることです。
- 患者自身の価値観・人生観などを考慮し、それと矛盾がない判断を、代理判断者が本人に代わってなすことを意味します。
- 家族等(代理判断者)は、患者の最善の利益について配慮していますか?
- 「当該治療による患者の利益が、本当に患者の負担を上回っているのかどうか」「本人にとって何が最もよいことなのか」について、関係者皆でコミュニケーションを深めてください。
- 最善の利益に関する判断は、判断をする人の価値観に左右されたり、恣意的になりがちです。中立的第三者の意見を取り入れるなど、独善的にならないよう配慮をしてください。また、他人は、患者本人のQOL(Quality of Life)を低く見積もる傾向があるとの研究結果もありますから、その点についても十分に配慮してください。
- 「患者が望むであろうこと」に可能な限り近づけるように話し合ってください。
- 家族等(代理判断者)は、患者と利益相反はありませんか?
- 家族等(関係者)内で、意見の相違はありませんか?
- 医師は、家族等の代理判断者の考え方や意向(家族自身の願望)も十分聴取し、可能な限り尊重します。しかし「家族等の願望」は、「患者本人の願望」を上回るものではありません。
- 家族等が、意思決定の際、あるいは意思決定後の不安や罪悪感に対処できるようにするための支援も重要です。
- 4.POLST(DNAR指示を含む)に関する医学的事項
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- 医師は、患者がPOLST(DNAR指示を含む)を出すのにふさわしい医学的病態かどうかについて熟慮してください。
- CPAの際には、CPRは基本的治療手技です
- POLST(DNAR指示を含む)は、「生命を脅かす疾患」に直面している患者、あるいは治癒の可能性のない患者に適用されます
- 病状・治療の有益性や無益性について十分に考察してください
- 予期されていない事態が起こった場合には、さらに慎重な考慮が必要です
- 患者および家族の意向は十分に斟酌されるべきであるが、もしその当該治療が有益でなく不適切な場合には、医師はその旨を患者(家族)に十分説明し、理解を得るよう努めてください。
- 医師がDNAR指示を書くことができるのは、蘇生が医学的に適応がない(心肺機能の回復が望めない)場合です。
- 他の医師によるセカンドオピニオンを得たり、中立的第三者の意見を聴取することが大切です
- 「すべてのCPAに対して、CPRを実施しないのか?」を確認してください
- 医師がDNAR指示を書くことができるのは、蘇生が医学的に適応がない(心肺機能の回復が望めない)場合です。
- ①あらゆるCPAに対してCPRを実施しない;
元々の患者本人の原疾患自体がターミナルなので、不測の別な原因でCPAが起きたとしてもCPRを望まない - ②不測のCPAが起こった場合には、CPRを実施する;
原疾患から予測されるCPAに対してはCPRを実施しないが、不測の別な原因でCPAが起きた場合には、CPRを実施する
- “無益性(Futility)”の概念について
- 医学的無益性の判断そのものにも、医療者の価値観や主観が入る可能性がありますので注意が必要です(例えば「回復することは稀である」「その治療は無益である」といった場合、イメージする頻度(成功の可能性)には医療者によってばらつきがあるといわれています)
- また、無益性の判断には、医学的事項のみでなく、患者の価値観・望んでいるQOLや治療目標などについても考慮する必要があります
- 十分な情報提供を受け、コミュニケーションがなされた患者が表明した治療目標や望むQOLが、CPRを実施することによって達成できないのであれば、そのCPRは無益(futile)という判断をすることができるでしょう
- DNAR指示は、蘇生に特異的に関わるものです。その患者にとって適切な他の医療ケアを提供することを妨げてはなりません。
- 医学的無益性の判断そのものにも、医療者の価値観や主観が入る可能性がありますので注意が必要です(例えば「回復することは稀である」「その治療は無益である」といった場合、イメージする頻度(成功の可能性)には医療者によってばらつきがあるといわれています)DNAR指示は、CPR以外の治療方針に影響を与えません
- CPR以外の、他の延命治療に関する具体的指示については、POLST(Physician Orders for Life Sustaining Treatment)の書式を使用してください(Ⅲ章:書式)
- CPAを含む急変時に、すでに出されているPOLST(DNAR指示を含む)に従うかどうか、担当医に確認する時間的余裕がある場合には、再確認をしてください。
- 5.POLST(DNAR指示を含む)作成の手続きについて
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- 意思決定のプロセスにおけるコミュニケーションの重要性
- 定期的な話し合いと信頼関係の構築の重要性
- 意思決定プロセスについての、記録は適切になされていますか?
- カンファレンスの議事録
- 決定内容の記録
- POLST(DNAR指示を含む)はカルテに記載する
- 意見の不一致がある場合の解決方法
- 関係者間の十分な話し合いで、意見が一致することが望ましいですが、意見の不一致がある場合には、セカンドオピニオンを求めたり、以下の倫理コンサルテーションや倫理委員会に意見を求めてください。
- 倫理コンサルテーション
- 倫理委員会
- 意思決定のプロセスが「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」(厚生労働省、2007)に沿っているかどうかを、再確認してください。
- POLST(DNAR指示を含む)は「延命治療差控え中止に関するガイドライン(厚生労働省)」(*資料参照)に沿ってなされる必要があります
- 6.POLST(DNAR指示を含む)後の配慮
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- 決定内容についての再評価と変更・更新
- POLST(DNAR指示を含む)を出した後にも、患者と定期的に話し合いをもってください
- 決定内容を取り消すことができる場合
- 以下の場合には、現在出されているPOLST(DNAR指示を含む)の適切性について再検討してください
- 意思能力のある患者による申し出
- 意思能力のない患者の家族による申し出
- 医師・看護師などのスタッフによる申し出
- 患者が、別な医療機関や介護施設に移るとき
- 患者の病状が変化したとき
- 緩和ケアの重要性
- POLST(DNAR指示を含む)は、必要な医療やケアを提供することを妨げてはなりません
- POLST(DNAR指示を含む)は、提供される医療の質を落としてはいけません。何が、その患者本人にとって最適な医療なのかを常に考えてください。また、緩和ケア的アプローチは、「生命を脅かす疾患」に直面している患者本人だけでなく、家族に対しても重要です
- 患者に、今後も医療ケアは継続的に提供されることを説明してください。患者は、POLST(DNAR指示を含む)後、医師が自分のことをあきらめてしまうのではないかと心配しています。患者と定期的に話し合い、本人にとってより適切な緩和ケアなどについて説明してください
- 患者に、今後も医療ケアは継続的に提供されることを説明してください。患者は、POLST(DNAR指示を含む)後、医師が自分のことをあきらめてしまうのではないかと心配しています。患者と定期的に話し合い、本人にとってより適切な緩和ケアなどについて説明してください
手術・麻酔をする場合には、POLST(DNAR指示を含む)は、一時的に停止することができます
- 今後も継続して検討が必要な事項
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- POLST(DNAR指示を含む)が出ている場合の、救急隊の救命処置について
- 決定内施設などにおける看取りが予定されている高齢者の救急搬送について容の記録
- 今回提示したPOLST(DNAR指示を含む)に関する書式・ガイダンスは、今後、日本臨床倫理学会の会員や、関係者の意見を反映し、定期的に、あるいは随時、評価・変更・改良していくことが望ましい
- Ⅲ POLST(DNAR指示を含む)書式
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POLST(DMAR指示を含む)「生命を脅かす疾患」に直面している患者の医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による指示書
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POLST(DMAR指示を含む)「生命を脅かす疾患」に直面している患者の医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による指示書
参考資料:
厚生労働省の終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン(2007年5月)- 1.終末期医療及びケアの在り方
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- ① 医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて患者が医療従事者と話し合いを行い、患者本人による決定を基本としたうえで、終末期医療を進めることが最も重要な原則である。
- ② 終末期医療における医療行為の開始・不開始、医療内容の変更、医療行為の中止等は、多専門職種の医療従事者から構成される医療・ケアチームによって、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきである。
- ③ 医療・ケアチームにより可能な限り疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和し、患者・家族の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療及びケアを行うことが必要である。
- ④ 生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は、本ガイドラインでは対象としない。
- 2.終末期医療及びケアの方針の決定手続
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終末期医療及びケアの方針決定は次によるものとする。
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(1)患者の意思の確認ができる場合
- ① 専門的な医学的検討を踏まえたうえでインフォームド・コンセントに基づく患者の意思決定を基本とし、多専門職種の医療従事者から構成される医療・ケアチームとして行う。
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② 治療方針の決定に際し、患者と医療従事者とが十分な話し合いを行い、患者が意思決定を行い、その合意内容を文書にまとめておくものとする。
上記の場合は、時間の経過、病状の変化、医学的評価の変更に応じて、また患者の意思が変化するものであることに留意して、その都度説明し患者の意思の再確認を行うことが必要である。 - ③ このプロセスにおいて、患者が拒まない限り、決定内容を家族にも知らせることが望ましい。
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(2)患者の意思の確認ができない場合
患者の意思確認ができない場合には、次のような手順により、医療・ケアチームの中で慎重な判断を行う必要がある。- ① 家族が患者の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする。
- ② 家族が患者の意思を推定できない場合には、患者にとって何が最善であるかについて家族と十分に話し合い、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする。
- ③ 家族がいない場合及び家族が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする。
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(3)複数の専門家からなる委員会の設置
上記(1)及び(2)の場合において、治療方針の決定に際し、- 医療・ケアチームの中で病態等により医療内容の決定が困難な場合
- 患者と医療従事者との話し合いの中で、妥当で適切な医療内容についての合意が得られない場合
- 家族の中で意見がまとまらない場合や、医療従事者との話し合いの中で、妥当で適切な医療内容についての合意が得られない場合
等については、複数の専門家からなる委員会を別途設置し、治療方針等についての検討及び助言を行うことが必要である。
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(1)患者の意思の確認ができる場合
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