臨床倫理認定士制度(基礎編)と上級臨床倫理認定士制度並びに登録制度
医療においては、日常的にさまざまな患者の病気の診断をしたり、治療を実施したり、あるいは予後の予測を行っているが、21世紀の医療現場においては、これら病気に対処する医療実践だけでは十分ではない。患者の価値観に配慮した治療方針決定のためのコミュニケーションをし、倫理的支援をすることは欠くことのできない医療の本質的な要素である。病院や地域(在宅医療・介護施設を含む)には多くの臨床倫理的な問題が生ずる。例えば、地域では、認知症の患者さんが徘徊したり、食べられなくなった時の胃ろうの問題。病院では、終末期の人工呼吸器の取り外しや、透析の導入や中止の問題について、医療者と患者家族との意見が異なるような倫理的な問題が起こり、社会的にも問題となっている。しかし、これまでは、倫理的問題自体が見過ごされたり、あるいは、対処する体制や方法論がなかったために、適切な対応がなされてこなかった。
そこで、日本臨床倫理学会では、数年の試行プログラムを経て、学会認定コースとして、2017年から、各医療施設において倫理的助言ができる人材を養成すべく研修制度を創設し、2022年現在既に全国で1000名以上が臨床倫理認定士として育っている(臨床倫理認定士制度)。また、2020年からは、上級臨床倫理認定士コースも創設し、地域のさまざまな医療介護施設から挙がってきた倫理的問題の解決への中核となる人材を育成している。(2022年現在上級認定士は約100名、登録病院・地域団体は、大学病院15病院を含め約60組織)(上級臨床倫理認定士制度)。
臨床倫理認定士や上級臨床倫理認定士、更に登録地域団体・登録病院が、日本中の医療施設の倫理的問題のよき相談相手になれることが期待されている。それは21世紀におけるよりよい医療者-患者関係を築き、よりよい医療実践につながると考える。