平成24年9月29日、さまざまな分野の専門家にお集まりいただき、日本臨床倫理学会の発起人会が開催され、ここに正式に日本臨床倫理学会(Japan Association for Clinical Ethics)が発足いたしました。ご参集いただいた皆さま方のご専門は(急性期および慢性期病院・在宅医療ケア・緩和ケア・高齢者終末期ケア・精神科医療・認知症ケア・遺伝子疾患・小児医療・臓器移植・生殖補助医療など医療・看護・介護に関する諸分野、さらには法律・社会政策・宗教・福祉・マスコミ、患者団体関係者等)多岐にわたり、日々経験している日常臨床における苦悩とジレンマ、それぞれに胸に秘めた熱い思い、そして日本臨床倫理学会に対する期待等が語られました。
医療ケアに関わる者は、日常臨床において、患者さんやご家族、そしてそれらの人々の置かれた状況や生活など、すべてを考慮して、さまざまな臨床上の決断をしております。このような実践の現場に則した倫理を提案し、その成果を実践の現場に反映し、よりよい医療者-患者関係を目指していこうと考えている実践現場の多くの熱意が、必然的に、そして自然に、この日本臨床倫理学会の設立の動きとなりました。このように、多くの皆さまに「実践に即した倫理は大事な問題だ」と即座に賛同していただけました。臨床の実践からかけ離れてしまうことがないように、病気と向き合っている患者さんやご家族、そして実践に関わる医師・看護師・介護者などを支える倫理を、実践に関わる者およびそれらに関心をもっている他の職種の者全員でつくっていきたいと思っております。
日常臨床の実践は、医療や介護の技術的要素だけではありません。臨床における倫理は、医療の本質的な一要素だと考えております。ひとりの患者さんにおいて、診断・治療・予後などと同様に、倫理的に考慮することは、欠かすことのできない医療の大切なひとつの要素です。臨床倫理とは、実際のケースに、外から新しい事実や価値観を持ち込んだり、聞き慣れない原則・原理を押し付けたりするものではなく、それぞれの臨床のケースの個性に応じた医学的事実と倫理的価値から導き出されるものだと考えております。われわれ、医療やケアの実践に関わる者は、臨床倫理が医療の本質的な一側面であることを認識することによって、共感に満ちたよりよい臨床的判断をすることができると確信しております。今後の日本の医療は「臨床倫理」という考え方がなければ、決して正しい方向に向かわないと思います。そして、臨床における判断が、直観や感情からではなく、医学的にも倫理的にも、さらには法的・社会的・文化的にもバランスのとれた判断となるように、異なった分野の皆さまの意見に真摯に耳を傾け、日本臨床倫理学会は対話・教育の機会を多くもちたいと考えております。具体的には、研究・論文発表だけではなく、日常臨床に潜む倫理的問題に適切に対処するための事例検討や倫理コンサルテーションの実践・施設内倫理委員会において、より適切なアドバイスができるための講習の実施や人材育成・終末期医療ケアや臨床研究
などをはじめとする諸分野における倫理問題提起とガイドラインやプロトコールの試案提示・社会的に論議をかもしている倫理的諸問題に対して、学会として適切にレスポンスをすることなどの活動も予定しております。
これらの日本臨床倫理学会の趣旨にご理解・ご賛同いただき、臨床実践に関わる諸問題を、医学的視点だけでなく、倫理的・法的・社会的・文化的視点からも見つめなおすために、より多くの臨床実践に関わる皆さま、およびそれらに関心を寄せている他の職種の皆さまが、本学会へ参加してくださることを願っております。
令和4年10月31日
日本臨床倫理学会
理事長 新田 國夫