現在社会では人々の生き方の多様性が尊重され、様々な価値観があります。高齢化社会を迎えた日本の医療の現場では生命の尊厳と人権の尊重は大切なものとされています。しかし現実には医療とその限界などによる倫理的問題に直面することがしばしばですが、このような倫理的規範が確立されているとは言えない現実があります。そして、このことは単なる医療の問題ではなく、人の生命をどのように考えるのかという現代の社会倫理の問題です。このような課題に取り組むために日本臨床倫理学会が設立され10年が経過しました。そして、「臨床」倫理学会とあることは全ての「臨床」現場に即して問題解決や規範提言などについての社会的な議論がなされることを期待しているものです。この間会員数は増加し、臨床倫理認定士研修、DNAR指示に関するするワーキングをはじめ様々な課題において活動実績を積み重ねてきました。医療・ケアに関わる全ての場面で超高齢化社会をどのように支えるか、そして「死に至るプロセス」をどのように考えて生き抜くかという知恵を絞る場であるからこそ多様性を尊重し様々な価値観を踏まえて正面から取り組んでいきたいと考えています。一方、会員の皆さまにとって親しみやすい学会であることを目指して運営に工夫していきたいと思っていますので積極的参加をお願いします。
価値観の多様化した現代において、倫理的な判断を迫られる臨床の現場での、悩みや戸惑いは、個人の努力では解決が極めて困難な状況になっている。
本学会は、このような悩みを持った人々が集まり、様々な意見を交換し、現代における倫理についての合意できる部分が、少しでも広がっていくことに役立つ場となることを願うものである。
臨床倫理学会において、法律家(元判事)である私が、果たしてこの重責を担うことは適当なのか逡巡しましたが、理事長のご指名ですので、清水先生の後を受けて2020年から本役職に就くことになりました。これまで、学会では、倫理教育委員会長として、諸先輩や総務担当の箕岡先生と協力しながら、臨床倫理認定士(基礎編・上級編)コース運営等に携わって参りましたが、今後は副理事長(教育担当)として役割を果たしたいと思います。
私は多くの倫理(外部)コンサルテーション活動を病院・地域でしていますが、どれ一つをとっても簡単な事例はなく、常に「臨床倫理」とは何かを、仲間と一緒に問い続けています。ことに、2020年初頭からのコロナ禍の中で、ともすると、現場はこれまで以上に「倫理」を話しにくい雰囲気に満ちていますが、逆説的ですが、だから「倫理」が求められていると思います。これまでも大事にしてきた、そして今後も大事にしたいルールをここで確認しておきます。① この学会の生命線は、「臨床(現場感覚)」です。② しかし、それは臨床を無条件に肯定するのではなく、「倫理的な臨床、倫理的感性を持つ臨床家(医療者・介護者)」を支えることです。③ 他方、臨床的な志向は、現状維持的な解決となりますが、より倫理的・普遍的な対応を考えることも必要です。④ そして多職種の対等な関係性です。
その上で今後を考える方向を示したいと考えています。それは、臨床倫理問題は急性期の病院だけではなく、慢性期、リハビリの現場でも、施設でも在宅でも地域でも問われており、これまでの倫理の原則だけではなく、医療資源の適正配分や、意思決定支援の方法など、多くの知恵を集結しないといけないということです。 学会を通じたこれらの活動により、医療者・介護者を支え、ひいては、患者・家族を支えるため何ができるかを、皆さんと一緒にとことん考えていきたいと思います。