「ブリタニー・メイナード」のケース
(2014.11.19)

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2.尊厳死と云う概念について

(1)Death with Dignity
今回の、ブリタニー・メイナードさんのケースについて、日本の多くのマスコミは「尊厳死」という言葉を用いていましたが、アメリカにおける「Death with Dignity」という概念は、日本で使われている「尊厳死」という言葉と異なった意味合いで用いられていることがあります。
アメリカでDeath with Dignity といった場合、

  •  (A) 患者の意思による延命治療の差し控え・中止
  •  (B) 延命治療の差し控え・中止が家族の代理判断で決定される場合だけでなく
  •  (C) Aid in Dying”(自殺幇助)、をも含んでいる場合があるからです。

アメリカでは、5つの州(オレゴン州・ワシントン州・ベルモント州・モンタナ州・ニューメキシコ州)においてPhysician aid in dyingも「Death with Dignity」に含まれています。これらの州のDeath with Dignity Act (DWDA) (注;尊厳死法とはあえて訳さず、英語表記とする)では、意思能力のある患者が、6か月以内に死亡するであろう治癒不可能で不可逆性の病気に罹っている場合には、医師によって適法に処方された致死量の薬物を自己投与することが許容されています。
また立場の違いによっては、上記「(C)Aid in Dying」を、Assisted Suicide自殺幇助とみなす人々もあれば、これは絶対にAssisted Suicideではないとする人々もいます。DWDAに賛成し、Suicideとは異なるものであるとする立場では、自殺は強いうつ状態にあり、身体は健康なのに、生きていたくない人がするものであり、“Aid in Dying”は、精神疾患がなく意思能力があり、本人はできるならば生きていたいのだけれども、ターミナル疾患に罹り死期が迫っている患者が選択するものだとしています。したがって、前述のごとく、“Aid in Dying”は、自暴自棄や絶望から選択されるものではなく、自分の人生を自分で、最期までコントロールするために選択されるのだとしています。

(2)日本における「尊厳死法案」
現在、日本の国会議員(超党派)の一部で検討されている尊厳死法案とは、『終末期の患者が延命治療を望まない意思を文書で示していれば、人工呼吸器をつけたり人工栄養を補給したりしないで死に至っても、医師は法的な責任を問われない』と定めるものです。一度始めた延命治療の中止を認める案も検討されています。これは、上記「(A)患者の意思による延命治療の差し控え・中止」に相当し、アメリカではすでに、当然の患者の権利とみなされているものです。アメリカでは、連邦法であるPatient Self Determination Act 患者自己決定権法、州法であるDNAR(POLST)法などによって、終末期の延命治療についての患者の意思、あるいは事前指示が尊重されるのは、患者の自律と尊厳に寄与するものだとされています。
また、「(B)延命治療の差し控え・中止が家族の代理判断で決定される場合」については、日本の尊厳死法案では言及されていませんが、代理判断が、適切に本人の意思を推定するプロセスや、最善の利益を考慮するプロセスを経ているのであれば、アメリカでは許容されていますし、また、日本の厚生労働省の終末期の決定プロセスに関するガイドライン(2007年5月)、東海大学事件や川崎協同病院事件の判例などから許容される可能性があります。
(3)日本における「尊厳死」の概念の混乱

上記の尊厳死法案における「尊厳死」の概念のように、「患者の意思によって延命治療をしないこと」を尊厳死と呼ぶ場合が実際多いのですが、更に以下のようなさまざまな解釈があります。

  • 『無駄な延命治療を打ち切って自然な死を望むこと』<東海大学事件判決>
  • 『新たな延命技術の開発により患者が医療の客体にされること(死の管理化)に抵抗すべく、人工延命治療を拒否し、医師は患者を死にゆくにまかせることを許容することである。一般的に、患者に意識・判断能力がなく(例外あり)、本人の真意や肉体的苦痛の存否の確認が困難な点、死期が切迫しているとは限らない点で、安楽死とは異なる』<甲斐>
  • 「無意味な延命治療の拒否」「苦痛を最大限に緩和する措置の希望」「植物状態に陥った場合における生命維持装置の拒否」<日本尊厳死協会;尊厳死の宣言書>
  • 「無駄な延命治療…」と定義そのものに、その行為に対する価値判断を含むことになるので、「尊厳死」=消極的安楽死と解釈する立場
  • 本人の意思・価値観を尊重した「その人らしい生き方(=死に方)」が尊厳死であるとする立場;この立場においては、本人の自己決定を尊重するのであれば、「延命治療を拒否し自然な病状に戻す生き方(=死に方)」も、「延命治療を希望し、死んでいく」生き方(=死に方)も尊厳死である、などがあります。